昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんはいつものように山に芝刈りに行き、おばあさんはいつものように川に洗濯に行きました。
どんぶらこ♪
どんぶらこ♪
おばあさんが洗濯をしていると上流から何やら流れてきました。
どんぶらこ♪
どんぶらこ♪
「あれは?」
近づいてくるのは小舟に乗った鬼ではないですか。
鬼はおばあさんの前まで来てすっと舟を停めました。どうすればそのように舟を操ることができるのか、おばあさんはとても不思議に思いました。おばあさんが不思議に思うのも無理はありません。なぜなら、それは未来からやってきた鬼だったからです。
「この辺りに美味しいラーメン屋さんはありますか?」
鬼は丁寧な口調で聞きました。
「ありません」
あるとしてもそれはずっと遠い場所でした。美味しいと決めつけるのも、おばあさんは少し気が引けたのです。
「そうですか」
鬼はそう言ってからしばらくの間おばあさんの顔を見つめていました。
「ええ、生憎ね……」
「では」
そう言うと鬼は小舟をターンさせ、どんぶらどんぶらと上流の方に戻っていきました。おじいさんに話すことができた。おばあさんはそう思いながら洗濯板を手に取りました。